2014年3月1日(土) 第23回月1原発映画祭/交流カフェ 菊池京子さん「県民健康管理調査と甲状腺検査 これまで、そして今、こんなことが起こっています」の報告

「県民健康管理調査と甲状腺検査 これまで、そして今、こんなことが起こっています」

お話:菊池京子さん(フリーライター)


こんばんは。菊池京子と申します。わたしは福祉関連、特に介護の分野でのライターをしております。出身が福島県いわき市で、高校卒業まで暮らしました。現在家族もいわきに住んでおります。福島原発事故はまさに自分と自分の家族に起きた大きな出来事となりました。事故当初、わたしの家族は東京都北区に避難し、その後、都内の都営住宅で10か月の避難生活をしたあといわきに戻りました。長年東京に住んでいる自分といたしましては、福島と東京の橋渡しができるといいなあという思いで活動してきました。本日は福島県の県民健康管理調査(2014年から名称が変更となり国民健康調査となりました)と甲状腺検査についてお話させていただきます。

1.県民健康調査とはなにか

この調査は、県民の被ばく線量評価と健康調査を目的としたものです。福島県民約200万人を対象に、2011年6月末から開始されました。福島県が福島県立医大に委託したもので、5つの内容から成り立っています。

1) 基本調査
2) 甲状腺検査
3) 健康診査
4) 心の健康と生活習慣に関する検査
5) 妊婦に関する調査

基本調査は、問診表が福島県から県民ひとりにつき1通郵送されてきます。5人家族であれば一家に5通届きます。0歳からご高齢の方々まで、すべての県民にこの問診表が送付され、原発事故発生当時から2011年7月までの行動を記録させて、外部被ばく線量を推定するものです。たとえば事故当時はどこにいたか、どのように避難したか。道筋、交通手段、屋外にいた時間、屋内にいた時間、車内にいた時間、宿泊や滞在した場所等々細かく記載していくことになります。自宅待機を強いられていた時期、学校へ通うようになった時期についても、屋内にいた時間や屋外にいた時間をはじめとして、1日1日の行動を時間単位で記載します。調査回収率をみると、記載事項が多く煩雑になってしまうということから、2013年9月末で県平均25%となっています。

甲状腺検査は2011年10月初旬から開始されました。対象者となったのは事故発生当時18歳以下であった子供たち約36万人です。そのうち検査を受けた人は対象者の約63%にあたる22万6千人。検査は3年がかりで県内を一巡しました。
エコー検査が基本で、判定により二次検査へと進み、必要によっては甲状腺に針を刺して組織を抽出する穿刺細胞診がなされます。
ここで「悪性腫瘍、あるいは悪性の疑い」と診断された場合は「要手術」となります。結果判定は4つに分類されています。

判定 結果 対応
A1 結節や嚢胞を認めなかった 平成26年度以降の2巡検査まで経過観察、待機
A2 6.0mm以下の結節や20.0mm以下の嚢胞がある 状態によって2次検査へ
B 6.1mm以上の結節や20.1mm以上の嚢胞を認める 2次検査へ
C 甲状腺の状態から判断して、直ちに2次検査を要するもの 2次検査へ

2.福島県の子供たちの甲状腺がんの人数について

県民健康管理調査検討委員会で発表された結果をみてみましょう。この委員会は県民健康調査について「専門的見地から広く助言等を得るため」として設置されたもので、福島県知事が指名する有識者によって構成されています。

日付 発表された内容 調査期間
2012.09.11 1名 口頭にて発表
2012.11.18 C判定1名 口頭にて発表
2013.02.13 がん3名(手術済)
がん疑い7名
口頭にて発表
2013.06.05 悪性ないし悪性疑い28例(手術13、良性1、乳頭がん7) 平成23-24年度合計
2013.08.20 悪性ないし悪性疑い44例
(手術19、良性1、乳頭がん18 性別比 男18:女26)
平成23-24年度合計
2013.11.12 悪性ないし悪性疑い59例(手術27、良性1、乳頭がん26
性別比 男25:女34
平均年齢:震災当時15歳で6-18歳に分布)

平成23-25年度合計
2014.02.07 悪性ないし悪性疑い75例
(手術24、良性1、乳頭がん32、低分化がん疑い1)
性別比 男28:女47
平均年齢:震災当時15歳で6-18歳に分布 現在手術待ち41人)


平成23-25年度合計

3.県民健康管理調査検討委員会の甲状腺検査に関する見解について

福島県と福島県立医大は、2011年当初「小児甲状腺がんは100万人に1~2人」の発症率であると喧伝していましたが、2013.11.12時点での2次検査未受検者および結果待ちを考慮した試算では、100万人あたり317人のがん発症率(放射線被ばくを学習する会:田島直樹氏試算)となりました。2014.02.07時点では、福島県も「100万人あたり440人」という発表をしています。

しかし、県民健康管理調査検討委員会(以下、検討委員会)は、発症率と原発事故による被曝の因果関係を次のような理由(スクリーニング効果)から認めているわけではありません。検討委員会の見解と市民団体、民間の医師、専門家の見解をくらべてみましょう。

1) 検討委員会側: こういった広範な小児甲状腺調査は世界で初めて行われるものであるため比較対象がない。

市民側: だからこそ、予断や先入観を持たずに詳細かつ丹念に検査をしなければなりません。1次検査はエコーだけで、血液検査、尿検査は実施されません。エコー検査も集団検診では短時間でおざなりの場合が多いです。1人2~3分程度で十分に時間をかけているものではありません。これは多くの母親、子供たち自身の証言、そして県立医大が巡回検査をしている医師、技師、スタッフのシフト表を見ても明らかです。

2) 検討委員会側: 健康な子供まで調査しているので、病気が前倒しで発見されている。

市民側: 県内全域をカバーするのに3年を要しており、時間差もあります。小児甲状腺がんの進行に関しては、世界中で研究されたことがほとんどないため、これまでの症例がないからといって「多発ではない」「原発事故の影響はない」と現段階では断定できないはずです。

3) 検討委員会側: エコー検査機器の精度が上がってきているので細かいものまで発見できる。

市民側: 機器の精度については、チェルノブイリ事故当時の機器と比較をしています。確かに向上はしているものの、チェルノブイリ事故後4~5年にアメリカなどから寄贈された検査機器は現在のものと解像度に劇的な違いはありません。したがって、早期に多く見つかるとはかぎらないのです。

4) 検討委員会側: チェルノブイリで小児甲状腺がんが増加し始めたのは事故後4年たってから。したがって福島で現在見つかっているものは、時期的に早すぎるものであるから、放射線に起因するものではない。

市民側: 1986年に起こったチェルノブイリ事故。当時は現在福島で行われているような広範な調査をする体制がありませんでした。調査が行われたのは事故後4年からで、現地の医師たちからは事故後早くから甲状腺異常が起こっていたという証言があります。旧ソ連の社会主義体制下では情報公開も不十分でした。

このように福島県、県立医大および検討委員会の見解に対し、不信や疑問の声が多くあがっているのが現状です。

4.何が問題となっているのか

1) 1次検査がエコーのみで血液検査、尿検査が実施されないこと。

参考として、小平市の三田医院、三田茂医師の診察をあげます。
三田医師は、放射能は福島県だけではなく関東も含まれているという認識をもち、2011年12月から約2年間、首都圏の子供1,500人の甲状腺検査をエコーだけでなく、血液検査もともにおこない、白血球などの変化に着目しました。この血液検査の内容は電離放射線健康診断という放射線作業従事者(原発労働者、医師、放射線技師など)が毎年受けなくてはならない検査でもあります。彼は、関東の子供たちも福島の子供たちと同様に、白血球、好中球、リンパ球などの数値に正常値を外れる傾向が現れていると発表しています。

2) 検査結果の詳細を入手するためには情報開示請求が必要となります。

わが子の検査結果を見たければ、情報開示請求をしなくてはなりません。検査結果はアルファベットの4判定で届くので、「嚢胞あり」といっても、どの場所に何個どのくらいの嚢胞があるのか、どういう状態になっているのかわかりません。細かく知りたければ福島県立医大に対し情報開示請求の手続きをとらなくてはなりません。
このプロセスをあらかじめ認識している親御さんは、前もって請求手続きをとるので、その子供たちの順番は繰り上げられ、時間をかけて丁寧に検査されます。知らないで、或いは疑問を持たないで、請求手続きをとっていない子供たちは3分で検査終了ということが行われています。

3) 県民健康管理調査検討委員会によるセカンド・オピニオン封じがあります。

2)のような状況の中、子供の検査結果を受け取った親が、県立医科大以外の県内外の病院へセカンド・オピニオンを求めに行くこともあります。これはごく普通のことです。しかし「県立医大へ行くよう勧められたい」という通達が病院や医院に出されました。実質的な「セカンド・オピニオン封じ」です。このようなことが現在の日本で公然と行われている事実は驚愕に値します。
すべての検査結果はもとより、手術をした場合の詳細(摘出、転移、リンパ節廓清など)もすべて福島県立医大が握っており、情報公開はそのつど小出しにされる状態が続いています。検査についての誤診も多く、データの誤記なども情報公開の不透明さに加わっています。

4) 原発事故による被曝との因果関係が否定され続けている。

2013年11月24日の東京新聞で、「がん判定の26人のうち、10人がなんらかの避難指示が出された13市町村で暮らしていた」と報じられていますが、福島県と県立医大はがんの発症と原発事故の因果関係について「あるかどうかわからない」ではなく、「関係は認められない」という見解を出しています。
因果関係を否定する医師や専門家たちは、チェルノブイリと比較して、今の福島の状態は発症が早すぎるといいます。当時チェルノブイリでは、1950年代後半から収集がなされた原子爆弾の被爆地である長崎や広島のデータと比較され発症が早すぎるといわれていました。ところが否定できないほど患者が多くなったため、国際的にも原発事故の被曝影響との因果関係を認めざるを得なくなったという経緯があります。被ばく医療の歴史は浅いので、既存の調査研究やデータを全能のように盾にし、新たに起きた事故とその影響を断じるのは尚早に過ぎる、という声が多くの専門家や市民からあがっています。にもかかわらずそれらを無視し続ける、県、県立医大、国の姿勢は多いに疑問です。

5) 検査結果や診断結果は最大のプライバシーである。

当然ながら自分の検査結果や診断結果を受け取るために情報開示請求をしなくてはならないというのは普通のことではありません。甲状腺検査については2013年11月に請求手続きが簡素化され、費用負担も軽減されているようですが、これも市民から抗議の声があがってからの対応となっています。

5.おわりに

福島で行われている甲状腺検査に関して検討委員会の発表を細かく見ていくと、原発事故との因果関係を否定したいという福島県や県立医大の意図がどうしても見えてきます。正式なものではありませんが、大人にも甲状腺の異常が増えているという報告もあります。たとえば、子供の甲状腺検査に付き添ってきたお母さんが一緒に受診した結果、異常が発見されたという話もききます。ほかにも健康問題が起こっていることも指摘され始めています。問題は甲状腺だけでなく、また、子供だけでもないのです。
現在福島で起こっていることは、東京電力福島第一原子力発電所事故により飛散した放射能により汚染された東日本全体、特にホットスポットがある地域や地方にとっても同様に大きな問題です。小平市の三田茂医師のほかにも、神奈川や千葉や茨城の市民たちが、自らや生協や市民活動などのネットワークにより独自の健康調査を行い、その結果はデータとして蓄積されてきました。子供の尿検査や血液検査では、甲状腺に由来する数値の異常やセシウムなどが検出され、ホールボティカウンターでは内部被曝を示す数値も出ています。

「小児甲状腺の問題は未知の課題。東日本は3.11以降、従来の医学の常識では見たことも経験したこともないことが起こっている。今は原因を証明することはできないかもしれないが、現象として起こっていることに対して、最大限できることをやっていく必要がある。」と三田医師は強調します。わたしも医師の言葉に賛成します。

今回、触れられなかったことですが、わたしは「心の健康と生活習慣に関する調査」についても多くの懸念を持っています。身体に現れる病気と違い、心の問題はそれこそ未知の部分が大きくあります。「心の病気」というと個々人の心がけのように受け止められがちですが、PTSD(心的外傷後ストレス障害)はもとより、被ばくによる脳や精神活動の影響も否定できるものではないでしょう。低線量被ばく下でのストレスが大きい生活はPTSDにふくまれないのかという点も疑問です。そうしたところにまできめ細かく手が差し伸べられている状況とは程遠いのが福島と東日本、この国の現実です。脳や心の病も身体の病と同様に人間の病です。

「分からない」ということは、「因果関係があるかもわからないし、ないかもわからない」ということです。それを無理やり「関係ない」と断言しようと躍起になるのはなぜでしょう。福島第一原発事故による放射能汚染は、未知の分野の公害問題だと私は捉えています。これからも目を離してはいけないと思います。
本日は大変ありがとうございました。

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