月1原発映画祭ニュースレター第11号

「月1原発映画の会」スタッフの小林です。
月1原発映画祭ニュースレター第11号をお届けします。

■今月のトピック

今月は「福島復興五輪に思う」のテーマで、スタッフそれぞれの思いを集めました。
まずは、復興五輪のコンセプトを確認すると・・・

◆「復興五輪」(復興庁 復興五輪ポータルサイトより)

◎東日本大震災に際して、世界中から頂いた支援への感謝や、復興しつつある被災地の姿を世界に伝え、国内外の方々に被災地や復興についての理解・共感を深めていただくこと
◎大会に関連する様々な機会に活用される食材や、競技開催等をきっかけとして来ていただいた被災地の観光地等を通じて、被災地の魅力を国内外の方々に知っていただき、更に被災地で活躍する方々とのつながっていただくことで、大会後も含め「買ってみたい」「行ってみたい」をはじめとする被災地への関心やつながりを深めていただくこと
◎競技開催や聖火リレー等、被災地の方々に身近に感じていただける取組を通じて、被災地の方々を勇気付けること
等により、復興を後押しすることを主眼とするものです。
これは、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の理念の一つとして大会招致の時から掲げられてきたものであり、こうした目標が達成できるように復興の情報発信などに取り組んでいます。
https://www.reconstruction.go.jp/2020portal/reconst-olympic/
(各省庁の取り組みなども読むことができる)

◆招致から開催までの流れを追ってみました。

◇2009年10月 2016年五輪の招致に失敗
◇2011年3月11日 東日本大震災、福島第一原発事故発生。原子力緊急事態宣言発令(現在ももちろん解除されていない)

4月10日 東京都知事選挙で、石原慎太郎氏が当選(4期目)

7月 石原都知事が2020年五輪への立候補を正式表明。スピーチで、東日本大震災からの復興を世界に示す「復興五輪」であると語り、招致のテーマとなった
http://www.asahi.com/olympics/hosting-in-japan/TKY201107160297.html

12月 政府(野田佳彦首相)が、福島事故炉の冷温停止を宣言

◇2012年5月 国内向けの招致スローガン「今、ニッポンにはこの夢の力が必要だ」を発表。招致委員会による寄付サイトが立ち上げられた。

https://donation.yahoo.co.jp/detail/4720001/
12月 衆院選で自民党が勝利し、安倍晋三氏が首相に。同日の東京都知事選で、猪瀬直樹副知事が東京都知事に。

◇2013年8月 第一原発のタンクから汚染水約300トンの漏洩が見つかる。しかし翌月・・・

9月 五輪の東京開催が決定。招致演説で安倍首相が「フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御(under control)されています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも、及ぼすことはありません」と述べた。発言は、20年3月に首相が浪江町を訪れて、記者の質問に答えなかったときの動画で見ることができる。
【Choose TV 「コロナ時代のメディア」第一部より】「官邸HPから消された記者質問」
https://www.youtube.com/watch?v=u6v5Gfrqn6k

◇2015年6月 福島県知事が避難指示区域外の避難者に対する住宅の無償提供を17年3月で打ち切る方針を発表。記事は19年5月のインタビュー

〈原発事故避難者は今〉/住宅支援打ち切りの冷酷さ
https://www.rengo-news-agency.com/2019/05/29/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF...

◇2018年7月 聖火リレーのスタート地を福島県とすることを決定

9月OurPlanet.TV 海外メディア向けに「復興五輪」をPR
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2307

◇2020年2月OurPlanet.TV  復興五輪のかげで〜聖火リレーが映すもの、映らないもの(取材・撮影:豊田直巳)

http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2472
3月 コロナウィルス感染拡大により、五輪の1年延期を決定。安倍首相「人類が新型コロナに打ち勝った証として、完全な形で開催する」

9月 菅義偉氏が首相に。

◇2021年3月25日 楢葉町のJヴィレッジから聖火リレーがスタート

福島・聖火リレー「復興途上の街並み」ルート幻に 組織委同意せず(毎日新聞7月15日)
https://www.youtube.com/watch?v=KLx7P0EVN8I

6月 OurPlanet.TV「復興五輪?ふざけんな!」吠える福島県の牛飼い・吉沢正己 (取材・撮影:豊田直巳)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2573
7月10日 首都圏や北海道に続き、福島県も無観客での開催を決定
「復興五輪の意義、見いだせない」福島も無観客、現地しらけムード(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20210710/k00/00m/050/272000c?cx_fm=mailasa&...

7月18日 復興五輪、看板倒れ…選手食堂での被災地食材アピール見送り「一部の国から拒否の声」に抵抗できず(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/117584

7月21日 橋本聖子会長驚き「入ってると思っていた」発表文書に復興五輪記載なく(日刊スポーツ)
https://www.nikkansports.com/olympic/tokyo2020/news/202107210000768.html

7月23日~8月8日 五輪開催

◆さて、五輪開催費用は・・・ 招致時の7340億円から1兆6440億円へ

TOKYO2020組織委員会およびその他の経費 20年12月発表 
https://olympics.com/tokyo-2020/ja/organising-committee/budgets/

しかしこれだけでは収まらないようです。19年12月会計検査院の報告によると、「関連支出」だけで、18年度までの6年間に約1兆600億円が使われています。上記費用と合わせると3兆円を超えることになります。(media close-up report 7月14日)
https://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015/e/bb3f9e2f7a76ab4e9d5bfbd53ad75f1a

◆月1原発映画祭スタッフの「福島復興五輪への思い」を集めました。

◇「今、ニッポンにはこの夢の力が必要だ」この言葉を聞いたとき、強烈な違和感を持ったのを覚えています。原発事故という現実を見ずに、夢を見ようとは、この国はいったい何を考えているのか、と。それに対して、どこで見たのか思い出せないのですが、「今、ニッポンには現実を見る力が必要だ」と書かれた方がいてとても共感しました。10年がたち、原発事故の後始末や被害者の方々の現実はますます見えづらくなりました。現実から目をそらせようとする力にだまされないように、関心を持ち続けていきます。

◇2013年9月7日、ブエノスアイレスのIOC総会で行われた当時の安倍晋三首相の招致スピーチを改めて見てみました。国立競技場建て替えも、招致のために「どこにも見られない斬新な設計の新しいスタジアム」が欲しかっただけだということがよくわかります。最初の国立競技場案、エンブレム案とも白紙撤回。買収問題が発覚し内部告発も。ボランティアユニフォームのデザインが没になり、費用はかさみ、1年延期、森喜朗組織委会長の差別発言と辞任、開会式の演出家と作曲家も次々とやめ、望まない国民のほうが多い中、無観客で、強行開催。その始まりとなった2013年9月7日のことは忘れてはならない。それぞれ5分強と3分弱ですので、忘れそうになったら、繰り返し見たい映像です。
「事態はアンダーコントロール」
https://www.youtube.com/watch?v=zf90ImlFDuU

「汚染水は福島第一原発の港湾内0.3k㎡で完全にブロックされています」
https://www.youtube.com/watch?v=zJK-DZpGNOE

◇2013年9月のIOC総会で、当時の安倍晋三首相が、東京五輪招致に向けて、福島第一原発の状況を「アンダーコントロール」と述べたときにはひっくり返るほど驚いた。その後、復興支援で何度か訪れていた岩手県で、建設に関わる人や重機が、被災地の工事を放り出して東京の五輪関連建築に移っていくのを見た。復興五輪と言いながら、復興にはえらく迷惑な話になっていると思った。コロナで1年延期が決まったときも、直前まで開催をめぐるすったもんだが続いたのも、私には「アンダーコントロール」発言へのしっぺ返しとしか思えない。五輪を見て選手たちの活躍に感動するのは、五輪開催の是非とは全く別の話だ。復興庁の復興五輪ポータルサイトもなんだか無理やりこじつけているみたいで虚しい。
下は現実を伝える福島民放テレビの番組。
https://news.yahoo.co.jp/articles/07846ceb6b79918ecb833a28f71ec41c47533960

◇復興五輪という言葉を聞くと、安倍元首相による五輪招致のスピーチの中の「アンダーコントロール」という言葉が脳裏によぎる。当時は事故を起こした原発の汚染水が海に流れ出ていて、湾内に張り巡らせたフェンス一枚で遮っていた。当然こんなものでは汚染水を遮れるものではなかったが、招致委員は安倍元首相を批判することなく東京五輪が決まった。後に、五輪招致のための賄賂工作などが明らかになっているが、国内で司法が乗り出した形跡はない。

当初より福島の復興にどのように五輪を絡めるのかについて理解に苦しんだが、五輪が開催されてみても、五輪によって福島の復興が恩恵を受けた形跡はまったく感じない。あるのは政治的パフォーマンスと電通などへの利権にまみれた無駄なお金の垂れ流しである。これは、福島の除染作業を始めとするお金の使い方、アベノマスクに象徴される利権団体へのお金の流れと通じるものがある。先頃、ツイッターで、「五輪の費用は都民1人あたり10万円」というのが話題になっていたが、膨大な税金をつぎ込みながら中身の薄い対策しか行えないという面で共通している。

「安全安心」というスローガンも福島と五輪で共通する。原発については安全安心という神話が国民には刷り込まれてきた。しかし、まともな津波対策、事故対策が取られておらず重大事故を招いてしまった。コロナ禍での五輪では管首相による安全安心というかけ声がむなしく繰り返される。空港での選手団が一般客と混ざってしまっている状況や、相次ぐ選手や関係者の感染など、安全安心からはほど遠い。この原稿を書いている五輪開催中である昨日(7月31日)の都の新型コロナ感染者数は4058人と過去最大である。

原発・五輪・コロナを通じて、そろそろ気がつこう。政府が「安全安心」と繰り返し説明する時は、「安全ではないが国民は安心だと信じ込め」という政府による刷り込み・洗脳の意図がある。いわば「危険安心催眠術」ともいえる。安全安心のかけ声のもとに巨額の税金が投じられる時は、利権にまみれた実益の薄いお金の流れがある。電通を始めとするマスコミはこの洗脳に与して、利権の一部を吸い取っているから、安全安心に対する批判はほとんど報道されない。安全安心は政府にとって黄金の方程式であり、水戸黄門の印籠のようなものである。これを打ち破るには、大多数の国民がこのからくりに気がつく必要がある。野党はこれを政府打倒の道具として欲しい。

復興五輪という空虚な言葉は、このような2021年時点の日本の無様な政治や社会の有様を、末永く後世に伝えるレジェンドとすべきである。

■インフォメーション

▪東京五輪開会式の夜、スイス国営テレビのドイツ語放送で放映されたドキュメンタリー『サイレント福島』。スイス・日本人映画監督のアヤ・ドメーニグ最新作。Vimeoにて364円でレンタル視聴できます。
https://www.ayadomenig.ch/?fbclid=IwAR2WzGsNrSts0DmGpraqfrzFmQAXumJF3OJ10KBH (51分)

▪ドキュメンタリー映画「発酵する民」横浜ジャックアンドベティにて 8月14日~上映 
東日本大震災・原発事故から10年。あの時に生まれたものは、今も確かに続いている。
コロナ禍の今を照らす、発酵ドキュメンタリー!(平野隆章監督・92分)
https://www.jackandbetty.net/cinema/detail/2598/

▪第107回 VIDEO ACT! 上映会 ~あれから10年・福島県双葉町~
上映作品『原発の町を追われて・十年』(2021年/日本/53分)監督:堀切さとみ
9月14日(火)19時~ 東京ボランティア・市民活動センター(飯田橋)にて
上映後、監督を交えたトーク&ディスカッションを予定。要予約。参加費500円
http://videoact.seesaa.net/article/482815253.html

■1行ニュース

▪OurPlanet.TV:南相馬「特定避難勧奨地点」解除の取り消し認めず〜 東京地裁 (2021/7/12)
http://ourplanet-tv.org/?q=node/2579

▪NHK: 2030年時点の発電コスト 太陽光が最安に 原子力を初めて下回る
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210712/k10013135341000.html

▪NHK:「エネルギー基本計画」再生可能エネルギー割合36~38%に(2021/7/21)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210721/k10013151741000.html

▪朝日新聞:黒い雨訴訟の原告「首相談話、根本的解決策にならない」(2021/7/28)
https://www.asahi.com/articles/ASP7W7QX0P7WUCLV00D.html
(ニュースレター第5号でもお知らせした広島の「黒い雨」裁判は、国が上告をあきらめ、原告の訴えが認められました。しかし内部被爆については認めないとあります)

▪朝日新聞:経産省、放射性廃棄物の輸出を検討 廃炉の大型機器想定(2021/8/6)
https://www.asahi.com/articles/ASP866FPTP86ULFA010.html?iref=pc_ss_date_...

■超ショートコラム「自分の言葉で伝えよう」

このコーナーへの投稿を募集します。
お題: 「原発ないと困るでしょ」「原発ゼロの主張は無責任」って言われたら?
「五輪が終わって思っていること」「コロナ禍の自粛で考えたこと」などでも構いません。→200字以内、名前/ペンネーム、住んでいる地名などは投稿された方の任意とします。
投稿の原稿はメールでeigasai2021★jtgt.info宛てにお送りください。←★を@に置きかえてください。

■次回のニュースレター

次回は、「避難は実現可能? 東海第二原発運転差し止め判決の意義」についてお伝えする予定です。

■ 月1原発映画の会

問い合わせ先  eigasai2021★jtgt.info ←★を@に置きかえてください。
http://www.jtgt.info/ (地域から未来をつくる・ひがし広場内)

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