月1原発映画祭ニュースレター第8号

■ 今月のトピック「処理汚染水の海洋放出について」

前回のニュースレターでは別のテーマを予告していましたが、政府が2021年4月13日に関係閣僚会議にて福島第一原子力発電所の敷地内に溜まり続けるトリチウムなどの放射性物質を含む処理汚染水を海洋放出処分する計画を承認したことを受け、急遽こちらを今回のニュースレターのテーマとして取り上げました。

◆ 処理汚染水とは

東日本大震災の津波による炉心溶融事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所では、燃料デブリに触れた雨水や地下水などの高濃度の放射性物質に汚染された水が1日140トンのペースで発生し続けています。

これらの汚染水は、ALPS(アルプス:多核種除去設備)という装置によって主な放射性物質が取り除かれ処理汚染水となりますが、装置では除去できない放射性物質のトリチウム(三重水素)が含まれているとされています。

この処理汚染水は、現在は福島第一原子力発電所の敷地内に設置された1000基ほどのタンクに保存されており、その量は約125万トンに及びます。福島第一原子力発電所の敷地内にはタンクを新たに設置する土地が底をついているため、2022年にはこのタンクは満杯となる見込みです。

このニュースレター内では処理水という名称は使用せず「処理汚染水」という呼び方をします。

◆政府が決定した基本方針

今回の政府が決定した基本方針をまとめると次のようになります。

・処理済みの汚染水は2年後を目処に海洋放出
・放出時は海水で100倍以上に希釈する(国の基準値の1/40程度、世界保健機関の飲料水ガイドラインの1/7程度にトリチウムの濃度を薄める)
・1年間に放出するトリチウムの量が事故前に福島第一原子力発電所で設定していた目安を下回るようにする
・漁場や海水浴場でトリチウムのモニタリングを行う
・東電が風評被害の実態に合った賠償をする
・風評被害対策などの関係閣僚会議を設置する

このニュースは数多くのメディアが一斉に国内外に報道したので、ご存じの方も多いと思います。

・NHK:トリチウムなど含む処理水 薄めて海洋放出の方針決定 政府 (2021年4月13日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210413/k10012971161000.html

・日経:原発処理水の海洋放出決定 2年後めど、100倍以上に希釈 (2021年4月13日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA12CGP0S1A410C2000000/

◆ 政府の決定に対しての反発

この決定に対して漁業団体に加え、中国、韓国などの周辺国が強く反発しています。

・産経:処理水放出「到底容認できず、強く抗議」 全漁連会長が声明(2021年4月13日)
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/210413/mca2104131106012-n1.htm

・朝日新聞:「海は日本のゴミ箱ではない」 中国、処理水放出を批判(2021年4月14日)
https://www.asahi.com/articles/ASP4G6VDBP4GUHBI022.html

・Newsweek:文在寅、福島第1原発の処理水海洋放出に「待った」 国際海洋法裁判所への提訴検討を指示(2021年4月14日)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/04/1-187.php

2015年に東電は処理水については地元及び全国の漁業関係者の理解なしにはいかなる処分も行わないと約束していましたが、今回の政府の決定はこの約束を反故にしたことになります。

・時事:漁業者理解、重い課題 東電社長、約束順守明言―原発処理水(2021年4月19日)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021041800432&g=eco

◆ タンクの中身

政府は処理汚染水にはトリチウムしか放射性物質は含まれていないという説明をしていますが、実は、2018年8月にトリチウム以外の基準値超の放射性物質検出とメディアで報じられていました。

・西日本新聞:基準値超の放射性物質検出、福島 トリチウム以外、長寿命も(2018年8月19日)
https://www.nishinippon.co.jp/item/o/442386/

・FOOCOM:おそまつだったトリチウム水処理の公聴会 トリチウムしか残らない前提崩れる(2018年9月5日)
https://foocom.net/column/shirai/17224/

政府はトリチウム以外は問題にならないという前提で説明していますが、この前提がそもそも間違っていることが判ります。次のNewsweekの報道は、このポイントについて鋭く切り込んで指摘しています。

・Newsweek:原発処理水の海洋放出「トリチウム水だから安全」の二重の欺瞞(2021年4月16日)
https://www.newsweekjapan.jp/fujisaki/2021/04/post-7.php

以下引用:
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汚染水の海洋放出が決定された同日、経済産業省はALPS処理水の定義を変更し、「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水」のみを「ALPS処理水」と呼称することを発表した。ということは現在、基準値を超える核種が検出されている汚染水は「ALPS処理水」ではない。また、「規制基準」をクリアする方法を、「2次処理や希釈」と表現しており、二次処理を経ずとも希釈により基準値を下回ればそれでOKとしているとも解釈できる。少なくともこうした先行き不透明な状況で、「海洋放出されるのはどこの国も流しているトリチウム水だから問題ない」と説明するのは不正確だし、「捕らぬ狸の皮算用」でしかないだろう。
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◆ FoE Japanの処理汚染水の海洋放出決定への抗議声明

国際環境NGOであるFoE Japanの声明は状況説明や論点がしっかりと整理された内容となっています。ぜひご覧ください。

・FoE Japan声明:処理汚染水の海洋放出決定に抗議する
https://www.foejapan.org/energy/fukushima/210413.html

次の動画は、FoE Japan製作の汚染水の海洋放出に対する福島の漁師たちの言葉を綴ったものです。

・福島ミエルカプロジェクト:福島の漁師たちー『汚染水』を放出しないで
https://www.youtube.com/watch?v=FdUvwSV4XP8

福島の漁師の状況については次の月1原発映画祭でも取り上げました。

2018年5月13日(日) 第60回 月1原発映画祭/交流カフェ 『新地町の漁師たち』
上映+山田徹監督トーク
http://www.jtgt.info/?q=node/2138

◆ 政府・東電のイメージ戦略→新たな安全神話

政府は処理汚染水という呼び方をせず「処理水」という名称を使用し、放射性物質で汚染されているというイメージの打ち消しにやっきになっています。前述の政府によるトリチウム以外は問題にならないという前提についても言葉巧みに議論をすり替える一つのイメージ戦略でしょう。処理汚染水の海洋放出では放出される放射性物質の量がそもそもの問題なのに、環境基準を引き合いに海水で薄めた処理汚染水の濃度に議論を差しかえている点もあまりにも不自然です。

処理汚染水にはALPSでは取り切れなかった放射性物質のトリチウムが含まれていますが、復興庁はトリチウムはどこにでもあり、健康への心配はなく、大幅に薄めて海に流すから安全であるとの安全キャンペーンを繰り広げています。復興庁は電通に3億700万円で福島復興に関するPRを発注しているとのことですが、今回その一環としてゆるキャラを使ってトリチウムの安全性に関するPRを始めたものの、翌日には批判を受けてチラシや動画の公開を休止しました。

・東京新聞:「トリチウム」がゆるキャラに? 復興庁「親しみやすいように」原発汚染処理水の安全PR(2021年4月13日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/97830

・東京新聞:復興庁の「トリチウム」キャラ、公開中止 原発処理水の安全性PRに批判噴出(2021年4月14日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/98124

・復興庁がトリチウムをゆるキャラにして紹介したけど消した動画
https://www.youtube.com/watch?v=pITmQdR5PBE

今回、中国や韓国が処理汚染水の海洋放出に反発したことに政府寄りのメディアがコメント記事を繰り広げたのも一つのプロパガンダのように映ります。

・プレジデント:「原発処理水の海洋放出」に反発する野党は、中国や韓国よりレベルが低い(2021年4月16日)
https://president.jp/articles/-/45203?page=1

このような政府・東電のイメージ戦略・プロパガンダは新たな安全神話を作り上げ国民の批判をかわし、思考停止に追い込もうとする狙いがあるように思います。

今回の政府の発表直後に私自身一瞬、処理汚染水の海洋放出についての政府や東電のイメージ戦略を鵜呑みにしかけてしまいました。しかし、ふと疑問を感じて掘り下げて調べてみたところ、芋づる式におかしな点が見えてきたのが今回のレポートの発端です。イメージ戦略・プロパガンダによって、目を曇らせない、自分の目と頭で問題を調べて理解する姿勢が重要なのだと思います。

なお、処理汚染水の処分方法については様々な対案がありますが、次回のニュースレターではこれについて取り上げる予定です。
(文責:工藤智行)

■ オンライン・カフェ 自分の言葉で伝えよう 投稿募集!

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■ 一行ニュース

・朝日新聞:核ごみ処分場の誘致、再び論争に 鹿児島・南大隅町長選(2021年4月10日)
https://www.asahi.com/articles/ASP4B61MFP49TIPE00S.html
(核ごみ処分場の誘致を主張した候補者は落選しました)

・朝日新聞:「核のごみ」寿都町の住民対話が紛糾(2021年4月15日)
https://www.asahi.com/articles/ASP4H62LDP4HIIPE002.html?iref=pc_extlink

・NHK:自民 議員連盟 原発の新設や増設求める提言案まとめる(2021年4月23日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210423/k10012991801000.html?utm_int=n...

・NHK:運転開始から40年超の原発の運転 福井県同意 関電が再稼働へ(2021年4月28日) 
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210428/k10013002301000.html

■ インフォメーション

・ドキュメンタリー映画『シロウオ〜原発立地を断念させた町』 YouTubeにて公開されました。(2013年制作・かさこ監督)
https://www.youtube.com/watch?v=K78YLgRCkrs

・青木美希さん(朝日新聞、ジャーナリスト)『いないことにされる私たち』展 クレヨンハウス東京店3Fにて、5月31日まで開催されています。
https://www.crayonhouse.co.jp/shop/pg/1tk05-210420

■ 次回のニュースレター

次回のトピックは「処理汚染水の海洋放出について その2」の予定です。
*ニュースレターのバックナンバーはこちらから
http://www.jtgt.info/?q=taxonomy/term/21

■ 月1原発映画の会

問い合わせ先  eigasai2021★jtgt.info ←★を@に置きかえてください。
http://www.jtgt.info/ (地域から未来をつくる・ひがし広場内)

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