月1原発映画祭ニュースレター第14号
「月1原発映画の会」スタッフの小林です。
月1原発映画祭ニュースレター第14号をお届けします。
■今月のトピック「本で読む、原発問題」
今月は、スタッフそれぞれがお薦めする本をご紹介します。「原発問題」とひとくくりにしましたが、そこにはさまざまな側面があり、もちろん関連書籍も多数あります。一市民である私たちスタッフが、自分の言葉でお薦め本をご紹介します。
◆『私が原発を止めた理由』 樋口英明著/旬報社/ 2021年/税込定価1430円
この書籍は、福井地裁の大飯原発運転差し止め訴訟で、運転差し止めの判決を下した際の裁判長であった樋口英明氏が、なぜ原発を止めなければならないのかについて、法曹界の難解な言葉を用いることなく解説したものです。この書籍の要旨も、訴訟の判決も、ほぼ次のような流れになっています。
第1 原発事故のもたらす被害は極めて甚大。
第2 それゆえに原発には高度の安全性が求められる。
第3 地震大国日本において原発に高度の安全性があるということは、原発に高度の耐震性があるということにほかならない
第4 我が国の原発の耐震性は極めて低い。
第5 よって、原発の安全性は許されない。
原発の耐震性については、次のように極めて脆弱であることが指摘されています。
・多くの原発が建設された当時、震度7は400ガルの重力加速度と考えられており、700ガルが原発の耐震基準とされていた
・その後の阪神淡路地震を契機として観測網の整備が進み、震度7は1500ガル相当であり400ガルは震度5の耐震基準にすぎないことが判明
・原発の耐震性は住宅の耐震性よりも劣る規準である
全国の原発が、本来ならば運転を諦めなければならない状況にあります。
訴訟を担当した裁判官が後にその内容について書籍にするというのは異例だそうですが、「無知は罪、無口はもっと罪」という言葉を引用し樋口氏はこの本を書いた理由について、原発の危険性について知ったのにそれを告げないのはさらに重い罪になると語ります。読者の方にも、自ら考えて自分ができることを実行していただきたいと結んでいます。本書の司法の目からみた原発の危険性に関する分析は見事という他はありません。ご一読をお勧めします。(T.K)
旬報社 https://www.junposha.com/book/b561325.html
◆『孤塁 双葉郡消防士たちの3・11』吉田千亜著/岩波書店/2020年/定価1980円
『ふくしま原発作業員日誌 イチエフの真実、9年間の記録』片山夏子/朝日新聞出版/2020年/税込定価1870円
事故から10年目の3月に続けて読みました。『孤塁』は事故発生から1週間が日を追って、『作業員日誌』はその後の9年間が年ごとに描かれていて、私にとっては2冊がつながっているように思えました。
『孤塁』では、緊迫し混乱した当時の様子と、使命感を持つ消防士の方々の不眠不休の活動を知り、通常の救助ができない原子力災害のおそろしさを改めて感じました。他の原発でも事故があれば避難や救助がどれだけ困難になるか、ということも考えさせられました。
『作業員日誌』では、重装備の過酷な作業と、作業員の身分の不安定さを改めて知り、原発事故の後始末にきちんとお金をかけることができない国の姿勢を思いました。汚染水問題も最初からずっと続いてきたことに改めて気づかされました。
どちらの本も、現場の声を丁寧に集めて時系列に編まれていて、9年間を振り返ることができます。そして今も放射能の危険のなかで働く人がいることを忘れてはいけないと思いました。(A.K)
岩波書店 https://www.iwanami.co.jp/book/b492586.html
朝日新聞出版 https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=21730
*福島原発刑事訴訟支援団のオンラインセミナー第4回(2021/10/20)で、著者の吉田千亜さんが『孤塁』について語った動画をこちらから見られます。
https://shien-dan.org/online-seminar-202108/
◆『なぜメルケルは「転向」したのか ドイツ原子力四〇年戦争の真実』熊谷徹著/日経BP社/2012年/税込定価1760円
ドイツのメルケル首相が政界を去るのに合わせて、この本を読み返してみました。副題にあるように、ドイツの原子力政策と反原子力運動の歴史がつづられています。確かにメルケル首相はすみやかに脱原発を決めましたが、熊谷氏は「緑の党が1998年に政権参加に成功した瞬間に、この国の原発廃止への道筋はすでに確定していたと私は思う」と述べています。私がこの本を読み返していたのは、ちょうど衆院選とその結果が出た頃だったので、政党や社会運動も紆余曲折を経ながらも時間をかけて形作られていくもので、短い期間での答えを求めて一喜一憂し過ぎる必要はないのだと思えました。
熊谷氏は最後にこう述べています。「福島で爆発したのは原子炉だけではない。(中略)人間と安全よりも成長と経済効率を優先した社会も爆発したのだ」 事故を起こした日本がなぜ脱原発できないのか、もう一度考えるきっかけを与えてくれる本だと思います。(A.K)
日経BP https://www.nikkeibp.co.jp/atclpubmkt/book/12/P48900/
◆『聞き書き 小泉金吾 われ一粒の籾なれど』加藤鉄 編著/東風舎出版/2007年/税込定価2500円(DVD『田神有楽』付)
核燃料サイクル基地として巨大開発が進められてきた青森県六ヶ所村で、開発用地の区域にただ1軒残り、米を作り森や神社を守りながら暮らし続けた小泉金吾さん(2010年に82歳で逝去)の人生が聞き書きで綴られた貴重な記録です。
六ヶ所村が石油コンビナートを中心とした「むつ小川原開発計画」の頓挫から核燃施設誘致計画に巻き込まれていくなかで、お金と権力にものをいわせて「辺境・過疎地」に犠牲を強いる社会構造に対して一歩も引かなかった小泉金吾さんのありようが、地の言葉でほとばしるように語られます。そのような人物がいかにして形成されていったのか? それはむしろ、本書の前半に語られる下北半島の厳しい風土、戦前・戦中・戦後という時代背景と、自身のおいたちや仕事の遍歴、日々の暮らしからじわじわと伝わってきます。
編著者の加藤鉄さんは映画監督。1995年に六ヶ所村に入り、⾼レベル放射性廃棄物がフランスから初めて搬⼊されて以来の3年半の出来事と共に、小泉金吾さんに密着してドキュメンタリー映画『田神有楽』(2002年)を完成させました。そのまま隣村に移住してしまった加藤監督が章ごとに添えた文章も心に残り、私には忘れがたい1冊になっています。(A.U)
*入手方法:下記へ葉書か電話かFAXで注文。(要送料)
自然食の店「まるめろ」
青森県弘前市川先3-13-20 TEL・FAX 0172-26-3469
*月1原発映画祭では2013年に加藤鉄監督を迎えて「田神有楽」と「フクシマからの風」(同監督、2011年)を上映しました。
レポート http://www.jtgt.info/?q=node/258
◆『いないことにされる私たち 福島第一原発事故10年目の「言ってはいけない真実」』青木美希 著/朝日新聞出版/2021年/税込定価1650円
「だって、福島(の原発事故)では一人も死んでいないでしょ。」2022年3月号は、福島特集にしようと話していたときのわが社、60代男性の言葉だ。私はこの言葉にずっと引っかかっていた。なぜ、そんな言葉が出るのか、なぜ、私はそれに違和感を覚えるのか、この本は教えてくれる。
第1章では、原発事故の被害者が、いったい何人なのかさえ、はっきりしていない事実が明らかになる。政府発表の現在の原発事故避難者は、4万人。だが、帰還者の数からすれば、7万人以上が戻れていない。避難者=被害者が一体どれだけなのかを把握し、被害の大きさを認めることが第一歩ではないか。
第2章は自殺者の多さ。被害を自殺者で計るなんてことは本当はしたくない。でも住宅支援が打ち切られた直後、中3男子が自殺し、その父親も心身に変調をきたす。筆者はその姿を追う。
この本を読んでいる最中に、日本建築家協会の傘下である「災害復興支援機構」の70代男性から電話があった。「われわれはまちや建物を建設することで復興だとしてきたが、福島の被災者の心の復興が必要ではないか。アドバイスがほしい。」私は言った。「福島原発事故は企業による最悪の公害汚染。災害ではなく、被害。復興ではなく、補償だ。」原発事故を東日本大震災の被災と一緒くたにし、あたかも天災のようにとらえてこなかったか。「復興」が原発事故被害者の心を苦しめる。福島では「復興」も「災害」も使わずに話をしよう。(N.N)
朝日新聞出版 https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=22862
◆『原発プロパガンダ』本間龍著/岩波書店/2016年/税込定価902円
本間龍氏は長らく博報堂に勤めており、その広告業界での内情や知見を元に原発に関するプロパガンダが長年に渡りいかに繰り広げられてきたかを、膨大な量の調査を元に解説しています。
本書ではメディアの生命線ともいえる広告枠を、電気料金から捻出した巨額の広告費で長年に渡り買いあさり、広告媒体のメディアが原発に対しての批判番組の放映、批判記事の掲載をさせない圧力をかけていた事実が明らかにされています。
たとえば、1976年に当時テレビ東京に勤めていた田原総一朗氏は原発設置を巡る電力会社と広告代理店の癒着を描いた「原子力戦争」という書籍を刊行します。こちらは雑誌「展望」の連載が元になっていましたが、連載開始後にすぐに電通から圧力が加わり、連載を中止するか会社を辞めるかという選択を迫られたそうです。結局、田原総一朗氏はテレビ東京を辞めて連載を続けたそうです。あるいは、電力会社がTVのニュース番組のスポンサーになることで、ニュースでは原発に都合の悪いニュースを報道させなくするといった取り組みが行われていました。
このように原発プロパガンダは単に広告を目にした人に対する原発の安全・クリーンといったイメージ作りだけでなく、報道統制の役割も担っていました。取り組みがいかに巧妙で戦略的であったかが上記のような実例を元に語られています。
本書は2016年刊行で、311後の原発プロパガンダの再開についても触れています。広告代理店が考え出したスローガンは次の通りです。
・原発は日本のベースロード電源
・火力発電は二酸化炭素を排出するので、環境に優しくない
・原発停止による割高な原油の輸入は国富の流出
まさに今の政府の原発に対する説明と瓜二つです。これが原発推進派の手の内ならば、広告代理店の影響の及ばないホームページやSNS等のメディアを通じてこれらに対して一つずつ反論を重ねていくのが脱原発の市民運動や政治活動として効果的ではないかと感じました。原発推進派の手の内を知るにはもってこいの一冊です。(T.K)
岩波書店 https://www.iwanami.co.jp/book/b226386.html
■超ショートコラム「自分の言葉で伝えよう」
皆さんがお薦めしたい本も教えてください。放射能、チェルノブイリや福島の事故、反対運動、エネルギー問題・・・。今回スタッフが紹介した本の感想も歓迎です。
→200字以内、名前/ペンネーム、住んでいる地名などは投稿された方の任意とします。
投稿の原稿はメールでeigasai2021★jtgt.info宛てにお送りください。←★を@に置きかえてください。
■インフォメーション
▪訃報です。飯舘村の元酪農家、長谷川健一さんが、10月22日甲状腺がんのため68歳でお亡くなりになりました。被害者団体の共同代表などとして活動され、数々の映像作品にも出演され、発言されていました。ご冥福をお祈りし、長谷川さんが伝えてくださったことに思いをはせたいと思います。長谷川さんが出演され、月1原発映画祭でも上映した『遺言 原発さえなければ』シリーズの公式サイトはこちら。 https://www.yuigon-fukushima.com/
▪「原爆の図展」文京シビックセンター1階 展示室2 2021年11月11日(木)〜14日(日)
主催:「原爆の図」を見る会・文京
丸木美術館から2点の絵画と、映像上映、展示などを、都内で見られるこの機会にぜひ。
http://www.jtgt.info/?q=node/3470
▪原発いらない金曜行動、官邸前で毎月第3金曜日に続いています。次回は11月26日。
https://bit.ly/3oeAW9K
■1行ニュース
▪PRESIDENT Online: 脱原発で一部から絶賛されたドイツが「国中大停電の危機」を迎えている笑えない理由 (2021/10/11)
https://president.jp/articles/-/50717
▪東京新聞:脱炭素へ再生エネ倍増 第6次エネ基本計画を閣議決定 原発の新増設は盛り込まず(2021/10/22)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/138374
▪環境ビジネスオンライン:「冬の電力、需給厳しい」エネルギー業界全体で対応を 官民連絡会議(2021/10/22)
https://www.kankyo-business.jp/news/029867.php
▪読売新聞:美浜原発3号機、再稼働から4か月で運転停止…冬場に電力逼迫の懸念も
(2021/10/23)
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20211023-OYT1T50131/
▪NHK選挙WEB:寿都町長選 現職の片岡春雄氏が6選 「文献調査」継続の見通し(2021/10/26更新)
https://www.nhk.or.jp/senkyo2/sapporo/17837/skh50591.html
▪NHK:柏崎刈羽原発 本格的な検査開始 テロ対策上の重大な不備相次ぎ(2021/10/26)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211026/k10013321881000.html
▪共同通信:軽石漂着、原発に注意喚起 海底火山噴火で規制委員(2021/10/27)
https://news.yahoo.co.jp/articles/b3b5adf23d2b465237e17eb63e80e4289d1db908
▪NHK:福島第一原発 裁判官が初めて敷地内を視察 東電株主代表訴訟(2021/10/29)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211029/k10013327661000.html?utm_int=n...
■次回のニュースレター
次回のトピックは「気候変動と原発推進について考える」の予定です。
■ 月1原発映画の会
問い合わせ先 eigasai2021★jtgt.info ←★を@に置きかえてください。
http://www.jtgt.info/ (地域から未来をつくる・ひがし広場内)
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